2005年12月14日

イル・ポスティーノ IL POSTINO 

『イル・ポスティーノ』IL POSTINO (1994年、107分、イタリア/フランス)

Postino_4.jpg

監督: マイケル・ラドフォード Michael Radford
製作: マリオ・チェッキ・ゴーリ Mario Cecchi Gori 、ィットリオ・チェッキ・ゴーリ Vittorio Cecchi Gori 、ガエタノ・ダニエレ Gaetano Daniele
原作: アントニオ・スカルメタ Antonio Skarmeta
脚本: アンナ・パヴィニャーノ Anna Pavignano 、マイケル・ラドフォード Michael Radford 、フリオ・スカルペッリ Furio Scarpelli 、ャコモ・スカルペッリ Giacomo Scarpelli 、マッシモ・トロイージ Massimo Troisi
撮影: フランコ・ディ・ジャコモ Franco Di Giacomo
音楽: ルイス・エンリケス・バカロフ Luis Enriquez Bacalov
 
出演: マッシモ・トロイージ Massimo Troisi ,フィリップ・ノワレ Philippe Noiret, マリア・グラツィア・クチノッタ Maria Grazia Cucinotta,リンダ・モレッティ Linda Moretti,アンナ・ボナルート Anna Bonaluto

あらすじ
実在した詩人パブロ・ネルーダの実体験をA・スカルメタが本に著した原作を映画化。
1950年代のイタリア、ナポリの沖合いに浮かぶ小さな島。そこへチリからイタリアに亡命してきた詩人パブロ・ネルーダが滞在する。
老いた父と暮らし、漁師になるのを望んでいない青年マリオは、世界中から送られてくるパブロへの郵便を届けるためだけの配達人の職につく。パブロとの出会いで、詩の素晴らしさを知ったマリオは、一目ぼれした食堂で働くベアトリーチェという娘に詩を送ろうとする。

イタリアの喜劇俳優マッシモ・トロイージは、この映画の撮影が終わった12時間後にこの世を去った、まさに命の炎を燃やして映画に魂を吹き込んだ。
ilpost2.jpg

【解説】
『ヴェニスの商人』のマイケル・ラドフォード監督作。本作の舞台はナポリです。
イタリア三部作でも作るつもりでしょうか。

『ヴェニスの商人』での、彼の女性の描き方が妙に気になったので、『イル・ポスティーノ』をそれと関連づけて論じてみようと思う。

主演のマッシモ・トロイージが命をかけて演じた役者としての生き様と、この映画の主人公が重なるとして、この映画は、感動作のように思われているが、私は、実は違うのではないか?と思っています。

確かに、生ききるということはどういうことかを問いかけた味わい深い作品である。
あまり書くとネタバレになってしまうが、もともと感受性が強い(そうじゃないと詩をつくろうなんて思わないでしょ)マリオは、詩人との出会いで人生を変えてしまった。

Postino_1.jpg

そして俄然目覚めて、人生に漁師として生きる以外の生きがいを見出してしまった。
こんなマリオのことを、よかったよかったで済ませなかったところが、さすがマイケル・ラドフォードだと唸ってしまいます。

そこには重いテーマがある。

マリオは、美女に出会わなければ、意に沿わないとはいえ、ゆくゆくは漁師となり、つましく一生を送ったのではなかったか?

彼は、詩人との出会いで、目覚めてしまった。そして美しい女性との恋もそれに拍車をかけた。それがよかったのか、悪かったのか、これは観た人にゆだねられる。


答えは詩人の苦悶の表情に出ていると私は理解しました。

短い一生でも達成感を感じられたのならよかったと思うべきか。たぶん、普通ならそうだと思うのだろう。本作に感動した人はそこに感動したと思う。

しかし、私は、彼には静かな一生も合っていたのではないかと思わずにはいられない。
映画の後半近くまで、彼には幸運が舞い降り続ける。だが、それは彼にとって、残りの一生を静かに過ごすエネルギーを、運を奪ってしまったようにも思える。

だって、ベアトリーチェは本当に美しいですが、彼に合っていない。
ilpost3.jpgネタバレな写真ですかね?

魂とひきかえに力を得た彼に待ち受けていたもの。それがあのラスト。

パブロ・ネルーダは、自分がマリオに「知性」を与えたことを後悔しているように見えます。
何も知らず、ただ漁をしていたほうが彼にとっては幸せだったのではないか。
彼の人生を狂わせてしまったのは詩人の自分ではないか、その自責の念にネルーダは苦しんでいたのではないか。と思います。


この映画と『ヴェニスの商人』との共通項は、男が女に運命狂わされるという設定だと思うのは私だけでしょうか。








posted by マヤ at 22:47| Comment(13) | TrackBack(17) | イタリア映画レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TB、感謝です!

>パブロ・ネルーダは、自分がマリオに「知性」を与えたことを後悔しているように見えます。

なるほど! 確かにそういう解釈が成り立ちますね。それで、あの陰鬱な表情の意味が解けた気がします。
ただマリオにも、生き方の選択肢を選び取る意志があったはずなので、誰の責任でもないですね。
充実した人生だったんじゃないかしらん!?

私のレビュー、TBエコーさせてくらさいませ。
Posted by カゴメ at 2005年12月15日 13:38
TBありがとうございます。

この映画にはいろんな解釈ができますね。
レビューを読んでいて、納得できるところが多かったです。
そういった解釈を許す映画は名画なのだと思いました。

Posted by のっち at 2005年12月18日 01:01
TBをありがとうございました!

充実した非凡な人生が単なるハッピーエンドにつながるわけではなく、
解釈の奥が深い作品であるかもしれませんね。
その悲壮感がより一層、島の美しさを際立てていると思いました。

これからもマヤさんの更新を楽しみにしています。
よろしくお願いしますね!
Posted by yoko at 2005年12月18日 19:07
先日はT/Bありがとうございました。
記事拝見しました。
そうですね、ラストシーンには確かに自責の念も感じられましたよね。
ネルーダの詩集を少しだけ読んだことがあるのですが、
その裏には、この映画のような真実の物語があったのかもしれないと、
感慨深いものがありました。
マリオの死は悲劇ではあるけれど、
人生の選択を与えられたことに感謝したのではないかなぁ。
ホントに名作は、何年経っても語り会いたくなるものですよね(笑)
こちらからもT/Bさせて頂きました。
どうぞヨロシクお願いします。
Posted by Carolita at 2005年12月18日 22:15
TBありがとうございます。

>パブロ・ネルーダは、自分がマリオに「知性」を与えたことを後悔しているように見えます。・・・・その自責の念にネルーダは苦しんでいたのではないか。と思います。

これ私も思いました。
ネルーダとマリオとの出会いが、本当に良かったのかどうか、でもそれはわからないことなんでしょうね。いろんな意味で奥深く、考えさせられる映画でした。
それにしても、ネルーダは実在した詩人だったんですね。知りませんでした。

わたしもTBさせてもらいました。
また遊びに来ますね♪
Posted by Mao at 2005年12月20日 06:40
 TBとコメントありがとうございました。
 今、イタリア語を勉強しているので、さかんにイタリア映画を見ています。「イル・ポスティーノ」は、「音」がすばらしい映画ですね。冒頭、マリオが部屋にいると窓から船が帰ってきた音(と声)がするところなど実によかったですね。

 パブロ・ネルーダは、この映画にあるようにチリに帰るのですが、1973年、アジェンデ政権が軍事クーデターで転覆させられる時に混乱の中で死を迎えます。ラストのネルーダの苦悩の表情は、マリオが殺されたことへの怒りの表れと受け取りましたが、これから彼自身にも襲い掛かってくっる凶暴な力との闘いを暗示しているようにも思えます。
 ベアトリーチェが必ずしもマリオの新しい生き方に賛成していないところも、ネルーダの苦悩をいっそう深くしていたのかもしれません。
 マリオがベアトリーチェと結ばれることと、マリオがコミュニストになることとは別の問題なので、マリオが自分の問題として新しい生き方を選ぶところが、家族との関係を含めて、もう少し深く描かれていたらよかったな、と思いました。

 スペイン映画の「蝶の舌」という作品は、スペイン内戦を背景に老先生と小学一年生のモンチョの心のふれいあいを描いたすばらしい作品です。この作品の場合には、コミュニストであるモンチョの父親が、妻の説得に負けて裏切り、共和派である老先生に罵声を浴びせ、モンチョも叫びながら先生に石を投げるという衝撃的なラストになっていました。自由を求める人々とその家族の苦悩がリアルに描かれていると思いました。


Posted by kazamishotaro at 2005年12月21日 15:03
カゴメさま、のっちさま、yokoさま、caloritaさま、Maoさま、kazamishotaroさま、みなさまコメント&TB返しありがとうございます。
都度コメントにレスができず沢山になってしまったので、まとめてレスさせていただきますね。

50年代当時の世界の状況、コミュニズムの潮流を考えると、ネルーダとマリオのほほえましく見える出会いとのどかな日々の背後にひたひたと暗い影が忍び寄っていることに気がつかねばいけないということですね。
そういえば、日本だって戦後の労働争議などは激しかったですよね。

マリオがベアトリーチェと結ばれることと、マリオがコミュニストになることとは別の問題

kazamishitaroさんのご指摘は鋭くてなるほど!とうなずいてしまいました。
ネルーダはイタリアの小さな島に亡命してきたくらいですから、母国にいることは命の危険にさらされるということ。
この映画の登場人物には非常に身近に「死」があったということですね。
労働争議や、民主化を求める運動は、現代の日本人が考えるよりもっと重い、命がけの運動で、だからこそ妻は簡単に応援できなかったのでしょう。

「蝶の舌」もそうですが、この映画は若い人よりも、そういう時代を知る世代に観て欲しい作品でもありますね。

Posted by マヤ at 2005年12月22日 23:22
TBありがとうございます。自責の念も含めて純粋な魂を持った友が不条理にも命を絶たれたことへの怒りと哀しみすべての表情が、あのエンディングだったのではないかと思っています。
この作品は風景や言葉が非常に美しい作品ですが、時代の潮流によって運命的に出会い、またそれに飲み込まれるように訪れる別れ、という数奇な運命の巡り合せをも描いたものと観ることもできますね。
此方からもTBさせて頂きます、また宜しくどうぞ。
Posted by lin at 2006年01月26日 07:20
linさん、的確なコメントありがとうございます。
風景と言葉と、あとベアトリーチェも、映画の中で浮いてしまうほど美しいですよね。
Posted by マヤ at 2006年01月29日 15:17
TBありがとうございます。静かに心に染み入る映画でした。強く印象に残っています。
Posted by paul-ailleurs at 2007年01月23日 23:53
paul-ailleursさん
コメントありがとうございます。
ネルーダの詩集はいかがでしたか?
西洋社会において詩を語るというのは、日本の俳句のようなものでしょうか、よく日常で口ずさむシーンが映画にも出てきますよね。
Posted by マヤ at 2007年01月25日 22:23
以前にこの作品に関して書いた記事をTBさせていただきますね。うまくできてるといいんですが…。

今度、ネルーダの詩集も読んでみようと思います。考えてみれば、マッシモもフィリップももうこの世の人ではなくなったわけで、主演俳優がともにいなくなっても、こうして作品は永遠に生き続けるのだなあ…と感慨深く思いました。
Posted by 豆酢 at 2007年01月30日 13:42
そうでした!
フィリップも昨年亡くなりましたね。
ラストシーンの表情が忘れられません。
また見直したら違う意味でも泣けてきそうです。
TBできてますよー、そちらにも伺います。
Posted by マヤ at 2007年01月30日 21:51
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