2005年10月30日

家の鍵 Le chiavi di casa

『家の鍵』Le chiavi di casa
監督:ジャンニ・アメリオ
2005年イタリア映画祭で上映された本作は、2006年4月8日より岩波ホールにて公開。

le_chiavi_di_casa.jpg

あらすじ
ジャンニ(キム・ロッシ・スチュワート)は、若い時に付き合っていた恋人との間に子どもができるが、難産で恋人は死んでしまい、子どもは重度の障害をもって生まれた。ジャンニはまだ若く父親になる準備もできていなかったため、パオロと名づけられた  息子を恋人の両親に預けて、逃げ出してしまう。時は流れ、三十代半ばになったジャンニは、今では結婚し、子供も生まれて普通の生活を送っていた。
しかし、パオロが15歳になった夏、突然ジャンニは父親としてパオロと療養所で過ごすことになる。


解説
この映画は原作があります。イタリアの作家、ジュゼッペ ポンティッジャの『明日、生まれ変わる』です。彼自身にも障害者の息子がおり、その経験を元に著していますが、ノンフィクションではありません。

『いつか来た道』(98)でヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞したジャンニ・アメリオ監督最新作。最新作とはいえ、2004年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされた2003年の作品です。
監督の作品はこの2本しか見ていないのだが、偶然か、主人公は『いつか来た道』は兄弟、『家の鍵』は親子という血のつながった男2人だ。しかし、性格や見た目は水と油のように違う、対極にあるという設定だ。
これだけ異なると、家族ではなく、他人のほうが理解しあえるに違いない。そこがドラマを生み出すのだ。「血は水よりも濃い」イタリア人の業が悲劇をより一層際立たせる。

『家の鍵』(日本タイトルはこのままなのだろうか)は、イタリア映画のリアリズムの伝統をビシビシ感じる作品だ。ジャンニ・アメリオ監督は、写真でしかみたことないけど、眼光鋭い、厳しい人であるという印象を受けた。そう、この映画もそのまま残酷で非情な映画だ。それは暴力的だという意味ではない。

キム・ロッシ・スチュワート演じる父親は自分の過去、暗部を見ないように、遠ざけて遠ざけて生きてきた。彼が思い出したくない過去とは、障害をもって生まれた息子と、その息子を捨ててしまった自分だ。だが、「ある日突然」それが目の前に現れる。生きている限り消し去ることができないものをつきつけられて、途方に暮れてしまう男。
誰しも、見たくないものは見ないで、気が付かないフリをして生きてゆきたい。が、現実は残酷だ。
私が監督がどうして残酷だと言ったのかというと、父親を容姿端麗なキム・ロッシに演じさせたことだ。背が高く、ブロンドに青い目の端正な顔立ち。一方、息子のパオロは本当にハンディキャップを持った少年が演じている。父親が美しければ美しいほど、そうでない息子(内面はもちろん置いといて)が痛々しい。しかも娘ならまだお互い異性として受け入れることができたかもしれないのに、男同士であることが、いやがうえにこの父親と息子の差異を際立たせる。

しかも父と子は隔絶された場所にいる。映画の舞台は故郷のイタリアではなく、ドイツの療養所だ。異国で、病院という密室で、イタリア語が通じず、話すにもお互いしかない。逃げ場も一息つく場所も全く与えられない世間から隔絶した場所。一切のムダを排除している演出は徹底していて、音楽すらほとんど流れない。色彩もそう。終始曇り空で、イタリアの青い空は出てこない。見ていて息を抜く場がほしくなる。

この映画をみて、なぜか日本の茶の湯を思い出した。あの場所もこのような静けさと緊張に満ちている。4畳半の密室で、茶人と客人が対峙するあのはりつめた空気。そこではふだん聞こえない音も聞こえる。お湯の沸く音、茶杓でお茶を混ぜるシャカシャカする音、戸を開ける音、衣服がすれる音。

さて、タイトルが「家の鍵」というのは、何を意味するのだろうか。
鍵といって、まっさきに思い浮かぶのは、天国の鍵。イエスが弟子のペテロに授けたといわれる鍵である。これをペテロがもっているからこそ、カトリック世界でのペテロの地位は絶対なのだ。(ペテロは初代ローマ法王でもあり、バチカンは彼の墓の上に建てられている)
なぜ、キリスト教と結び付けたかというと、キム・ロッシ演じるJeani(ジャンニ)という名前はヘブライ語で "Yohanan"「神の恩寵」という意味を持つからです。

対する息子のパウロは、キリスト教をヨーロッパに布教し、世界宗教としての礎を築いた聖パウロからとってるんでしょうか。まあ、イタリアには聖人からとった名前の人はたくさんいますしね。英語ではポールのことだし。

家の鍵は、果たして天国の鍵のことなのか。息子と2人で新しい家庭を築くことができるのか、その家に入るために必要な鍵とは何か、そういう話と思えばいいかな。だから宗教的な寓意は含まれてないかもしれません。

息子は父親を振り回し、一度は息子を捨ててしまった父親は彼に負い目があるし、どう扱っていいのかわからない。
終始一貫してオロオロしているのは、大人のほうであり、パオロはいたってマイペースなのが時折ほほえましくもある。おろおろしている父親を挑発して困らせ、居直ってる節もある。

ジャンニの緊張の糸が、ふと切れてしまうのが、この映画のラストシーン。父はただひたすら自分の無力さ思い知る。最初からずっと思い知らされているのだが、ずっと抑えてきた心のフタがふと開いて、たまらない感情が外へ流れ出すのだ。
そのとき人間はどういう行動をとるか。

へんに甘ったれたシーンがひとつもない。本当に、恐ろしいくらい冷徹な監督だなあ。

家の鍵 4月8日より岩波ホールロードショー
公式サイト : http://www.zaziefilms.com/ienokagi/

原作本『明日、生まれ変わる』のレビューこちら






この記事へのコメント
こんばんは。TBありがとうございます。
自分は、まだ未見でして詳しくコメントできませんが、観賞後に改めてお邪魔させてください。よろしくお願いします。
Posted by あかん隊 at 2005年12月15日 02:29
あかん隊さま
コメントありがとうございます。
地味な映画ですので、(公開してくれる)岩波さんには感謝です。
ぜひご覧になりましたら、感想お聞かせくださいね。
Posted by マヤ at 2005年12月17日 20:38
はじめまして。
父親を演じたキムは昨年12月ローマ市内で
バイクに乗っていたところをはねられて
長期入院していたのですが、きのうのこちらの
新聞には、「ベルリン映画祭には出席」とコメント。
元気そうでほっとしました。
彼の抑えた演技がとても好きです。
TBありがとうございました。
Posted by amore spacey at 2006年01月27日 00:11
amore spaceyさん
コメントありがとうございました。
とっても貴重なニュース!
別途UPさせていただきてよろしいでしょうか?
気になってたんですよー。
またamore spaceyさんのブログにも遊びに行きます。
Posted by マヤ at 2006年01月27日 23:03
>(ジャンニ)という名前はヘブライ語で "Yohanan"「神の恩寵」という意味を持つ・・・

そうなんですか。
私の方こそ大変参考になりました。
確かに、苦難は「神の恩寵」だと思います。
苦難なくしては、自分を磨くことはできないからです。
ジャンニは、願ってもないチャンスを得たのです。
だとすると、パオロはやはり天国の鍵を開ける存在なんですね。
コメントに感謝!

Posted by マダムクニコ at 2006年04月18日 20:55
マダムクニコさま
コメントありがとうございます。そう考えるとすっと納得できますね!
原作をこれから読んでみようと思います。また気がついたことがあったらそちらにもお邪魔しまね。
Posted by マヤ at 2006年04月23日 00:28
パオロ、ニコルはもちろんの事、キムも適役だったと思います。
こういった題材はコメントに困りますが、ラストは、前途多難を暗示しつつ、素晴らしかったと思います。
観終わって席を立つのが辛かったです。このまましばらくジッとしていたかったですね。何も考えないで....。
Posted by margot2005 at 2006年05月17日 00:27
パオロ、ニコル...役が抜けました...失礼
Posted by margot2005 at 2006年05月17日 00:29
margot2005さま、確かにラストはしばらく余韻に浸っていたい終わり方でしたね。とにかく普通ならあそこでもっとドラマチックな音楽いれたりすると思うけど、一切なかったのがすごいと思いました。無駄なものをそぎおとした研ぎ澄まされた映画だったと思います。
Posted by マヤ at 2006年05月21日 12:46
こんばんは。
原作『明日、生まれ変わる』の記事も読ませていただきました。
アメリオ監督ならではの設定、脚色だったのですね。
天国の鍵というのはなるほど素晴らしいです。
Posted by かえる at 2006年06月05日 00:34
かえるさん、コメント&TBありがとうございました。自分と向き合うというのがこの映画のテーマだったのかなあとふと、今思いました。
Posted by マヤ at 2006年06月06日 11:42
厳しい映画。戸惑いから理解へと判りやすいストーリーを期待すると拒否される。そんな印象を持ちました。パオロの心の奥底は誰にもわからない。理解して貰ったと思った瞬間それは幻想である事を知る。しかしその現実を本当に理解し受け入れ無いといけない。ここで無償の愛が生まれる。ラストシーンから会場に明りが点くまでの美しさは言葉に言い表せません。ワンテンポおいてゆっくりと明りがつき始めても、観客が席についたまま。こんな映画は始めてでした。岩波ホールとそのときの観客にも拍手。
Posted by ヒロシ at 2006年06月11日 08:45
ヒロシさま
コメントありがとうございます。
日々の雑事に追われている中でこういう映画をつきつけられるとドキッとします。
映画は2時間の濃密な時間でしたが、原作は子どもが生まれてから、今に至るまで迷いと葛藤の連続で、でもそれこそが現実なのだと思います。
Posted by マヤ at 2006年06月14日 10:45
マヤ様
TB有難うございました!お返しにTBしようとやりましたが・・・反映せず。コメントで失礼します。パオロの異文化に、父は戸惑うのは何となく分かります。障がいを持っている人の世界は未知なるものがあると・・・。私も仕事で障がいのある方と日々接しています。またお邪魔致します。
Posted by mezzotint at 2006年08月13日 11:36
mezzotintさま、コメントありがとうございました。TBも反映されたようです。
障がいのある方と日々接していらっしゃるのですね。やはり、そういう経験がある、なしでこの映画の捉え方は全然違うと思います。ちなみに、原作本のレビューのほうも是非一読いただけると嬉しいです。
Posted by マヤ at 2006年08月14日 18:30
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